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罪深い証【01】

由香里が家に着いたのは、周りが静まり返った夜遅くのことでした。玄関の外からタクシーのドアが閉じる音が聞こえます。

一人で妻を待ち続ける呵責から解かれる安堵とともに、どのように由香里へ言葉をかければ良いのか、迷ったままの自分に対する焦りが入り混じります。

暫くして玄関の鍵が回る音がし、ドアを静かに開けて由香里が入ってきました。岩崎とひと時の夜を過ごした妻が、再び夫の元に帰ってきてくれたことに、私を苦しめていた猜疑心は僅かながらも消えかかりました。

「ただいま…」

最初に言葉を発したのは妻の方でした。

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彼女が後ろめたい思いをすることの無いように、私が先に言葉をかけようと思っていました。しかし、居たたまれない妻の気持ちが、それを上回っていたのでしょうか。
そして、靴を脱ぐために足元に目を向けているのも、私と顔を合わせることを避けようとしているからでしょうか。

「お帰り…」

由香里を迎えるために、真っ暗な寝室で思い巡らせていた様々な言葉は、何一つ残らず私の中から消え失せていました。

「ごめんね…」

まるで私に対する罪を犯したような妻の一言でした。取り繕うように無言で頷くのが精一杯だったのです。自分の不甲斐なさに、情け無い思いが込み上げて来ます。

「由香里… ずっと待ってたよ… 由香里を想いながらずっと待ってたよ」

私は思わず妻を抱き締め、何度も何度も偽らざる想いを彼女の耳元で口にしました。
頭の中で考えた言葉よりも、それが私にとって最も彼女に伝えたかった心の内だったのかも知れません。

微かな甘い香りに包まれた由香里を両腕の中に感じながら、私は体を内から満たす情愛の高ぶりに浸りました。刹那の中で耐え続けた孤独の苛みが、由香里を抱きしめることで報われたような気がしたのです。

由香里は何度か小さく頷き、あやすような仕草で私の手を解きましたが、相変わらず目は伏せたままでした。

もしかしたら今夜、由香里と岩崎の間には何事も無かったのかも…
電話で岩崎が話したことは、私を揶揄するための戯れ言だったのかも…

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今更、何の根拠も無い、その場限りの言い訳に似た思いが心をよぎります。
妻は、口元に微かな笑みを浮かべて私の横を通り、寝室に入りました。
私は後を追って中に入ることを躊躇していました。まだ一瞬たりとも二人の目線が重なり合っていないことに、小さな焦りを感じていたからでしょうか。

由香里はベッドの枕元にある小さな灯りをつけ、何事も無かったように着衣のボタンを外します。
屑篭の中にある、夫が自慰に浸りながら妻を待ち続けた証に気付いたのか、背後にいる私の方を振り返りました。

妻が家に帰ってから、やっと今になって二人の目線が合ったのです。私にはそれまでの時間が何倍も長いものに感じられました。
しかし彼女の目はいつもの由香里ではない気がしたのです。それは彼女を愛する夫だけが気付く、他の誰にも分からない僅かな違いだったのかも知れません。むしろ、自分にしか分からない小さな不調和だからこそ、妻の仕草が何かを隠そうとしているように思えたのでしょうか。

何を取り繕おうとしているの?…

岩崎と愛し合ったのは今夜が初めてではないのに…
夫である私が見ている前で岩崎とセックスしたくせに…

何故か胸の奥に、私自身が望んでもいない辱めの言葉が泡のように浮かんできました。背徳にまみれた私の欲望が満たされた筈なのに、悪意の混じった辱めを心の中で彼女に向けていたのです。

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今、判ったよ… 由香里はきっと偽善者なんだ…
淫らな自分を隠すために貞淑を装った偽善者なんだよ…
だから仕方無しに夫の願望を受け入れた振りをして、他の男に抱かれたのかも…
だとすれば、全ての辻褄が合うはず…

きっと、帰ってきた直後に彼女が口にした「ごめんね…」の一言には、私が知らない意味が込められているのでは…

心を過ぎる僅かな疑いは、次第に理不尽な疑念へと駆り立てます。

もしかしたら、私が岩崎と出会う前から、由香里と岩崎は関係があったのでは…
由香里に対する私の寝取られ願望に付け込んで、本当は岩崎が持つ寝取り願望を叶える手伝いをしているのでは…

何の根拠や証拠も無い、無責任で身勝手な猜疑心が次々と交錯しながら絡み合いました。様々な疑いが互いに連なり、胸を奥から突き立てる鼓動の刻みを煽り立てます。
愛する妻が他の男によって理想の妻へと近づく度に、背徳に彩られた至福の副作用が私を苛み続けるのです。

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罪深い証【02】

由香里は、揺れ動く私の心に気付いていながら、小さな声であの男の名前を口にしました。

「岩崎さんと電話で話した?…」

私が頷くのを確かめてから、彼女はバッグの中から金属製の小物入れを取り出したのです。小さなケースの表面は光を反射して輝き、蓋はボタンロックで密封されていました。

「これ… 岩崎さんが貴方に渡してって…」

私が手の中で蓋を開けようとした時、由香里がそれを止めました。

「だめ… 私の見ていないところで…」

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小物入れを渡したのは岩崎の指示であって、自分の意志ではないことを訴えたかったのでしょうか。
私は寝室を出ると、自室の前で立ち止まりました。早る鼓動を押さえながら悴む指先で小物入れのロックを外し、ケースの蓋を開けたのです。

中に入っていたのは、由香里と岩崎が結ばれた証… 彼が妻の中で放った精を受け止めた淡いピンク色の避妊具でした。

ケースの底には小さく折りたたんだ布が敷かれ、その上に置かれた避妊具は、中に溜まった白い粘液が漏れないように、開口部を金色の細いクリップで閉じていました。

あの男はこの膜を茎に被せて、愛液が滴る妻の体の中を貫いたんだ…
艶めかしい膣の縮動に包まれながら、この膜の中で脈を打つように精を吐き出したんだ…

夢想の中で描いた光景が、目の前に突きつけられた現実によって生々しく蘇り、私の息遣いを囃し立てます。

私は開口部を閉じたクリップを外し、中の粘液に指で触れました。精に溶け込んだ欲望は既にその熱を失っていましたが、他人の妻で満たした悦楽の抜け殻が粘りとなって指先に纏わり付きます。

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あの伊豆で過ごした夜、私は由香里の膣口から漏れる岩崎の白い精を目にして、体を引き裂かれるような激しい嫉妬に身を捩らせました。そして、反り返った自分の茎を、他人の精液で満たされた妻の中へと沈めたのです。

生暖かな粘液が亀頭に絡み、狂おしくも眩い恍惚の中で、私自身も体を震わせたまま精の飛沫を吐き出したのでした。

あの夜の記憶を蘇らせながら立ち竦む私の下腹部は、不条理な熱い脈動が昂りとなって茎の先を上へと反り返らせます。心を掻きむしるような嫉妬と、得体の知れない至福が交じり合い、体を支える両足の力を奪い去っていくようでした。

私はケースの中の白濁液を見つめながら、岩崎の茎に舌を這わせる由香里の姿を思い浮かべたのです。

由香里… 岩崎が言った「もう一つの贈り物」を舌で覚えるために、これと同じ精を口でも受け止めたんだね…
由香里の体には、喉の奥に流れ込んだ岩崎の精が染み込んでいるんだね…
心の中では、受精しても構わないから体の奥に欲しいって願ったんだろ…

私は廊下の壁にもたれ、両指に付いた白濁の液が引く透明な糸を見つめたまま、寝室にいる妻に向けた罪深い言葉を繰り返したのです。

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罪深い証【03】

私は由香里に気付かれないように深呼吸をして、渇いた息遣いを静めました。妻が帰る前から、彼女と岩崎が二人で過ごした時の中で起きた出来事を覚悟していました。むしろ私自身がそれを願い、幾度もその場面を想い浮かべては身悶え、妻に向けた倒錯した情愛をつのらせていたのです。

妻を通して手にした岩崎からの証は、冷酷なまでの現実とともに、目にすることの出来なかった淫らで美しい妻の姿への憧憬を駆り立てました。

由香里自身の言葉で聞きたい…
今夜、どのように岩崎に抱かれ、愛されたのか…
その時、一人で妻を待つ夫に対して何を想ったのか…

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私は抜け殻のような足を引きずり、寝室の入り口から妻を見つめました。
彼女は着替えを終わり、ドレッサーの前に座って身を整えていたのです。鏡を通して私と由香里の目が合いました。彼女が家に帰ってから、これでやっと二度目のことです。

私は手に持ったままの小物入れをベッドの枕元に置き、由香里の側に歩み寄りました。彼女の背後から腕を回し、着衣の上から乳房の膨らみに手を重ねたのです。首筋から漂うほのかな香りが、擦り切れた心を慰めます。胸や腰の輪郭に沿って手を這わせながら、消え入りそうな声で妻に訴えかけました。

由香里… 待っている間は辛かったけど嬉しかった…
嬉しかったけど切なかった…
由香里が何をしてるかを想い浮かべて、自分の手で自分を慰めてたんだ…

妻は私の告白を聞きながら、何度も小さく頷きました。それは、刹那の想いで妻を待ち続けた夫への慰めなのか、それとも自分が犯した不貞への贖罪なのかは分かりません。

もしかしたら、他人に抱かれ、男の欲望を受け入れた自分の姿を夫に晒す苦痛から逃れるために、その場を取り繕おうとしているのかも知れません。
だとしたら、それこそが私に対する最も卑怯な裏切りなのです。

由香里… 今度は由香里が告白する番だよ…
それを逃れようなんて卑怯じゃないか…
罪の上に、更に重い罪を重ねることになるんだよ…
手伝ってあげる…
罪を償う懺悔を手伝ってあげるよ…

私は妻の背中に手を回し、強く抱きしめたまま唇を重ねました。舌先で隙間をこじ開け、彼女の舌に自分のを絡めながら、由香里と岩崎が二人だけで過ごした今夜の出来事を想い浮かべたのです。

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この舌が岩崎の茎を何度も這いずって吐精へと導いたんだ…
この愛おしい口内に岩崎の精液が脈打つように注がれたんだ…
ああ… この淫らな罪深い舌で私の茎を慰めて欲しい…
あの男よりも夫を愛してるって感じたまま迸りを受け止めて欲しい…

心の中に、妻の罪を辱しめる数々の言葉がよぎります。夫以外の男と肌を重ね合う夜を過ごした不貞の罪… 妻でありながら他人と淫らな行為をした女… それらの言葉ひとつひとつが私の脈拍を早め、由香里を待ち焦がれて渇ききった心への償いを訴えかけるのです。

これは由香里のためなんだ…
一人で抱えた罪を償うために、夫である私が助けてあげるから…

私は妻を抱きしめたまま、脇にあるベッドへと横たえました。
今夜の出来事を企てた私に対して、彼女が再びこの家に迎え入れられるための懺悔を行わせるためです。
そして、どのように他の男と愛し合ったかを言葉ではなく、男に躾けられた口淫によって告白することだけが、妻が私から許される唯一の方法なのです。

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プロフィール

川島 ゆきひと

Author:川島 ゆきひと
夫である私の見ている前で他人と体を重ね合わせ、すべてを受け入れる妻の姿…
夫である私にすらまだ見せたことのない露わな妻の姿…

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私の詳しいプロフィールについては、こちらをどうぞ








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