由香里と岩崎が初めて二人だけで逢う日が訪れるまでの間、私達夫婦が会話でこのことに触れたのは、時間にすればごく僅かだったのかも知れません。
あえて話を逸らしながらも、様々に揺れ動く想いを互いの胸に秘めたまま、普段の日常を過ごしたのです。
不安… 怖れ… 戸惑い… 焦り…
その全てが混じり合った交錯の中で、言いようの無い高鳴りが胸の鼓動を煽り立てます。私は秘かに由香里を見つめながら、幾度も彼女の淫らな姿を心の中で想い描きました。
男の茎に舌を這わせ、亀頭の割れ目から垂れ落ちる滴を舐めとる由香里…
秘部をなぞる男の舌先に身を委ね、愛液を滴らせながら漏らす悶えの声…
秘奥を貫く強張りを膣壁で包み、迸る他人の精液を子宮の中に受け入れる不貞の妻…
それらは全て、私の傍らで由香里と岩崎が体を重ねたあの日の出来事を蘇らせたものです。
他人が妻の体で欲望を満たす姿に打ちひしがれ、朦朧とした息を繰り返しながら味わう禁忌の恍惚を再び手に入れたい… 日が経つ毎に私の理性は崩れていくように思えました。
夫のために清楚を装い続けた由香里が愛おしいからこそ、彼女が不貞の人妻に変わる一夜を許したいのかも知れません。
妻の中に隠れていた「もう一人の由香里」に出会って以来、私の心は彼女の虜になってしまいました。
普段の日常が満ち足りた平穏なものであればある程、他人と愛し合う淫らな由香里を彼女の後ろ姿に重ね、秘かな恍惚の悦びに浸っていたのです。
数日後、私は岩崎に電話をしました。まるで彼によって自分自身を試されているような思いを感じながら、台本のように予め用意した挨拶を伝えました。
それは、岩崎と由香里が二人で逢うことへの葛藤だけでなく、妻の心まで奪われる怖れから逃げようとしているのかも知れません。
妻の体と一つに結ばれ、夫である私には与えられない性の悦びを彼女に教えた男に対する屈辱感…
他人の精液が纏わる妻の膣壁に包まれ、喘ぎの声を漏らしながら果てた自分自身に対する嫌悪感…
もはや今の私が自尊を捨てて岩崎に願うことはただ一つ… 妻の中に放たれる白濁液による受精を避けることだけです。
「由香里の体は今、妊娠の可能性が高いはずです。どうか避妊の処置だけは間違いなくお願いします…」
「それは残念ですが承知しました。必ずコンドームは使いますので心配しないでください」
岩崎は、私が望むとおりの答えを返しました。
「でも、残念な気持ちは川島さんの方が強いんじゃないですか? 奥さまが他人の精液を生のまま受け入れることに、激しい願望を持たれていますから」
私の性癖を知り尽くす岩崎の言葉に対して、とっさに返す返答が見つかりません。
「川島さんは、奥さまと他人のセックスを目の前にするだけでなく、その証となる痕跡に強い執着を感じる人なんです。決して異常な願望ではありませんよ」
岩崎は、由香里の体を知るからこそ淡々とした口調で断言出来るのでしょうか。浮き出る熱い汗が私の背中を火照らせます。
「もしよろしければ、奥さまに私達が使ったコンドームを持ち帰らせましょうか? 私と由香里さんが愛し合った証として」
それは私自身が心に隠していた、羞恥と恥辱で口にすることすら戸惑う歪んだ願望でした。
寝取られた妻の愛液と他人の精液に濡れた避妊具に対して、交錯した執着を抱いているのです。
初めて由香里が岩崎に抱かれた日、二人が部屋を出た隙に枕元にある屑入れの中から避妊具を手に取り、自虐の恍惚に浸った時から気付いていました。
でも 他人と交わった後のコンドームを夫に渡すために持ち帰らせるなんて…
それは由香里にとっては何よりも堪え難い恥辱のはず…
居たたまれない気持ちに打ちひしがれ、卑屈な願望を持つ私を軽蔑するのでは…
ましてや、妻を愛しているはずの私が、裏では彼女を辱める行為に悦びを感じるなんて…
「私がそれを頼んだと妻に言わないで下さい… 岩崎さんが仕向けたことにして下さい…」
「もちろんです。辛い想いで由香里さんを待つ川島さんの心を癒せるのは、奥さまが他人に愛された事実を示す証なのですから。私が悪役になりますよ」
咄嗟に口から出た卑怯な私の願いを、岩崎は承知してくれました。
むしろ、彼の言葉からは由香里に対する自信すら伺えます。
私は岩崎を超えられない…
油断していると、彼からの目に見えない支配は、知らぬ間に深く入り込んで来る…
私は電話を切り、深く吸った息を止めたまま、心の中に浮かび上がる岩崎と由香里が重なり合う姿を掻き消そうとしたのです。
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