寝苦しさに苛まれる夜が明けた朝、私は由香里の声で目を開きましました。眠りとの境界をさまよう長い時間から逃れるようにベットから出ると、霞んだ目を手で押さえながらリビングの椅子に座ったのです。
既に彼女は会社に行くための身支度を済ませ、朝食の準備をしているところでした。
いつもと同じ朝のひと時…
何も変わらぬ日常の光景…
唯一つの違いは、妻を見つめる私の戸惑いだけなのでしょうか。
他愛もない日常の会話を交わしながらも、テーブルに食事を並べる彼女の指先に心が乱れます。
妻は私が昨夜の出来事を目にしたことに気付いていません。むしろ私の方が、知ってしまったことを妻に悟られないように、普段どおりを装っていました。
私の中に二人の由香里が、別々の姿で浮かび上がります。
あの日まで、私の貞淑な妻として日々を過ごしていた由香里…
私に求められるまま、一夜妻として他人の傍らに寄り添う由香里…
どちらも私にとって最愛の妻の姿です。清楚と淫らが互いに存在し、両方が絡み合ったまま揺れ動く彼女にとって、閉ざされた夢想の自慰だけが私の呪縛から逃れる唯一の手段なのかも知れません。
由香里の体を思うままに味わった岩崎は、彼女の心の隙を操って、その全てを内側から支配することを企てているのでしょうか。
あるいは由香里自身が、岩崎の中に堕ちることを望んでいるのでしょうか。
結婚以来、密かに想い続けた至高の「理想」を手にした私は、その中に隠された罠に怯えながらも、他人が愛した痕跡を秘める由香里の美しさに心を奪われてしまったのです。
妻が想い描いた岩崎との場面の中に、傍らで見守る私の姿は有ったのだろうか…
身を捩らせながら嫉妬に悶え、それでも妻を愛し続ける私の姿に想いを寄せてくれたのだろうか…
私は夫婦として変わりのない朝の時間を過ごしながらも、由香里が描く理想の場面から自分の存在が霞むことへの焦燥を感じていました。
真実と虚構が入れ替わる恐れを抱きながらも、由香里を内側から支配する他人の存在によって、より美しさが彩られる妻の姿に心を魅かれていったのです。
>> 同じジャンルのブログ集(FC2ランキング)>> アダルト向けのブログ集(ADブログランキング)