岩崎と逢う日が近づくにつれ、由香里が彼と交わすメールの回数が次第に増えた気がします。もちろん、私にメールの内容を見せることは妻との約束です。
由香里は以前から岩崎と交わした連絡の内容を私に教えていましたが、二人だけで逢うことになってから、私は彼女にメールを直接見せるように求めました。
妻は最初、それを素直に受け入れましたが、次第に苦痛を感じるようになったのです。
私の妻でありながら、他人と逢う約束をメールで交わすことへの罪悪感からでしょうか。
夫である私の前で岩崎と肌を重ね、淫らな性の交わりをしておきながら…
迸る岩崎の精を体の中に受け入れ、恍惚の悦楽に身を震わせた妻でありながら…
一瞬、私の中にいる冷酷なもう一人の自分が由香里を辱め、責め立てます。
「ねえ… お願い… 貴方が岩崎さんと日程を決めて」
由香里は、メールの内容を見せる苦痛を味わうくらいなら、私が岩崎と連絡を取って欲しいと訴えたのです。
交わした文面を私に読まれる度に、書いた意図とは違う様々な疑いを抱かれるのでは…
私の気に触る表現や言葉遣いが、大きな誤解のきっかけになるのでは…
由香里が岩崎に送るメールには、絵文字や顔文字は含まれていませんでした。私に見せることを前提として、夫に邪推されないように、淡々と用件だけを伝える無感情なメールだったのです。
「うん、わかった… 私にメールは見せなくて構わないよ。ありのままの由香里の言葉で岩崎と約束を交わしていいから」
それは決して虚勢でも強がりでもありませんでした。私の求めを無理強いし、本来の由香里を捻じ曲げてしまったら、身を切る想いで他人に妻を与える意味が無いのです。
他の男が欲望の全てを妻の体で満たし、彼女の魅力の虜になって欲しい…
そして、彼女の夫である私を羨み、嫉妬して欲しい…
私からの約束を課すことが、由香里が他人によって理想の妻となりゆく妨げとなってはなりません。その代償としてなら、身を引き裂かれるような辛さに耐えることが出来るはずなのです。
その後、由香里はリビングで私と一緒に過ごしている時などに、途中で寝室に一人で行くことがありました。私に見えない場所で岩崎からのメールを読んだり返信したりしているのでしょうか。
さらに、由香里が携帯の設定を変えて、メールの着信音を消していることにも気付きました。岩崎から連絡が届いたことを、その度毎に私に知られることすら負担なのです。
初めて由香里を他人に託した時から、一切の秘密を作らないことを約束した私達の間に、次第に小さな内緒が積み上げられている気がしました。
そして、少しづつ泡のように湧く焦りとは別に、由香里が不都合な秘密を隠し持つことが、彼女の仕草や表情に今迄とは違う陰の美しさを与えてくれることに気付いたのです。
一夜妻として他の男と過ごす日への想いを隠そうとする由香里の姿には、清楚な妻から一人の女性へと戻る刹那の美しさが漂うようでした。
秘密を持つことが、彼女の奥深くに隠された淫らな妖しさを彩る媚薬となって、私の昂りを煽るのです。
妻が持つ「陽の美しさ」だけを見つめていた私にとって、今まで閉ざされ続けた陰の美しさは、封印したまま気付いてはならないものかも知れません。
夫に対する妻の些細な裏切りが、やがては取り返しのつかない大きな綻びになるのでは…
後で気付いても埋め合わすことの出来ない後悔への始まりになるのでは…
私は胸をよぎる不安に顔を背け、目に見えない危うさを秘めた美しい由香里に魅了されたのです。
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