由香里は土曜日の夕方、私鉄沿線にある駅の近くで岩崎と待ち合わせをすることになりました。
私は、二人の逢う日が決まらないまま過ごす針のような日常からは解放されましたが、これからは数日後に訪れるその日までを葛藤の中で過ごすのです。
私は会社から帰る途中、ターミナル駅のデパートにあるテナントで、由香里のためにケーキを買いました。
妻の喜ぶ顔が見たいだけ… 最初、他には何の理由も意図もありませんでした。
しかし、心のざわめきに苛まれていた私は、何らかの意味をケーキに込めたかったのでしょう。店員に頼んで、妻へのメッセージをケーキを書き入れて貰ったのです。
それは結婚以来、ずっと想い続けた由香里への情愛を短い言葉にしたものでした。
今の彼女にとって、それは残酷な言葉に思えるのだろうか…
どうか素直にありのままを受け止めて…
想いは決して変わらないことを伝えたいんだ…
家に帰り、リビングのテーブルに置いたケーキを見て、由香里は私に笑みを浮かべてくれました。今まで、互いに昂ぶる想いと躊躇いを顔に出さずに暮らした数日間でしたが、この時だけは縛りから解かれたように和らいだのです。
私は、キッチンで紅茶を入れる準備をしている由香里を背後から抱きしめ、首筋に唇で触れました。柔らかな胸を這いずる手に添えられた由香里の指先が、彼女の夫である幸福に浸らせてくれます。
妻の肌を慈しみながら、微かに漂う甘い香りに酔いしれ、何度もゆっくりと吸い込んだのです。
私の傍で、二度の夜を岩崎と共にした由香里の体…
妻が注がれた熱い精は、今もこの体の記憶に残っているんだ…
清楚と淫らが交錯する由香里の肌が、辛うじて理性を保つ私の心を、艶めかしい昂りへと掻き立てました。
「ねえ… せっかくのケーキが…」
由香里は私に顔を向け、目線でリビングへと誘います。
テーブルで向き合いながら、入れたての紅茶とケーキで過ごす日常の幸福に対して、私は物足りなさを感じているのでしょうか。
有りふれた生活にある小さな安らぎの積み重ねを、心の中で見失っているのでしょうか。
決してそんな事はないはず…
今、こうして感じる幸せは、私と由香里が夫婦でいる限り、この後もずっと続くはずです。
他人と一夜を過ごす妻の帰りを、身を裂かれる想いで一人待つことが出来るのも、清楚と淫らの両方を併せ持つ由香里が愛おしいからなのです。
由香里… 私が嫉妬で身悶える程に眩い夜を過ごしてきて欲しい…
岩崎と肌を重ねながら、妻の帰りを待つ私を一瞬だけでも想い浮かべて欲しい…
妻に恋い焦がれる夫だからこそ、ありのままの由香里を見つめる幸せが果てなく続くことを何度も心の中で願ったのです。
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