私が家に帰った時には、既に由香里は出かける準備を終えていました。
品の良い清楚な色調の服は、今の彼女自身が最も岩崎に見て欲しい姿なのでしょうか。それを思うと、自分が見えない何かに追い立てられる脅迫感に駆られます。
由香里は、私が戻る前に家を出ようとしていたに違いありません。それは愛する妻が他人によって淫らに染まる姿に魅せられた夫への裏切りでした。彼女にしてみれば、岩崎と愛し合うために外出する姿を隠すことが、僅かばかりの贖罪だと思ったのでしょう。その行為が、私が自らの存在を打ち消してでも手にしたい悦びを蔑ろにすることを、妻は気付いていないのです。
まだ由香里は判ってくれていない…
他人に妻を寝取られる切なさに隣り合う至福の満たしを…
私はカーテンを閉じたリビングで妻を背後から抱きしめ、心の中で無言の問いかけを繰り返しました。
教えて欲しいんだ… 岩崎の手によって脱がされるための下着を身につけたとき、自分の罪深い姿を鏡で見て何を思ったのか…
他人の元へ愛する妻を送り出す夫と、それを受け入れた自分に対して、どのように言い訳をしたのかを…
残酷な呟きを心の中だけの言葉に浮かべ、由香里の香りを求めて首筋に顔を埋めました。断ち切れない未練と、止めどない妻への情愛が、立ち尽くす体の中を何度も行き交います。手に伝わる妻の温もりが、私にとって最も大切な存在の儚さを訴えかけているように思えました。
そうしている間にも、岩崎と約束した時の訪れが迫ります。妻は苛責と葛藤から逃れようとして、私が抱きしめる腕に手を重ねました。互いの中に込み上げる不貞の魅惑が、二つの鼓動に絡みながら昂ぶります。
由香里は罪悪の責苦を隠すように不釣合いな笑みを取り繕い、私の腕から離れると寝室へコートを取りに行きました。
リビングに残された私は、ソファーに置かれた妻のハンドバックを手に取ったのです。奥の隅には銀色のラミネートに包まれた幾つかのコンドームが忍ばせてありました。
それは由香里の体を、岩崎が放つ白濁液との受精から守る儚い膜に過ぎません。彼は私との約束どおり、この避妊具を自分の精で満たし、私の妻が岩崎に愛された証として彼女に持ち帰らせるでしょう。
きっとその「証」は、妻が他人と交わる姿を傍らで見つめることの出来ない私にとって、身を裂かれるような激しい嫉妬に苛まれた心を癒す慰めとなってくれる筈です。
由香里は、そんな私の願いをどこまで受け入れてくれているのだろう…
不貞にまみれた危うい恍惚を知ってしまった妻は、どんな想いで罪深い「証」を私に差し出すのだろう…
私は胸の奥まで深く息を吸い込み、間近に迫る被虐の時を待ち焦がれたのです。
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