由香里は、揺れ動く私の心に気付いていながら、小さな声であの男の名前を口にしました。
「岩崎さんと電話で話した?…」
私が頷くのを確かめてから、彼女はバッグの中から金属製の小物入れを取り出したのです。小さなケースの表面は光を反射して輝き、蓋はボタンロックで密封されていました。
「これ… 岩崎さんが貴方に渡してって…」
私が手の中で蓋を開けようとした時、由香里がそれを止めました。
「だめ… 私の見ていないところで…」
小物入れを渡したのは岩崎の指示であって、自分の意志ではないことを訴えたかったのでしょうか。
私は寝室を出ると、自室の前で立ち止まりました。早る鼓動を押さえながら悴む指先で小物入れのロックを外し、ケースの蓋を開けたのです。
中に入っていたのは、由香里と岩崎が結ばれた証… 彼が妻の中で放った精を受け止めた淡いピンク色の避妊具でした。
ケースの底には小さく折りたたんだ布が敷かれ、その上に置かれた避妊具は、中に溜まった白い粘液が漏れないように、開口部を金色の細いクリップで閉じていました。
あの男はこの膜を茎に被せて、愛液が滴る妻の体の中を貫いたんだ…
艶めかしい膣の縮動に包まれながら、この膜の中で脈を打つように精を吐き出したんだ…
夢想の中で描いた光景が、目の前に突きつけられた現実によって生々しく蘇り、私の息遣いを囃し立てます。
私は開口部を閉じたクリップを外し、中の粘液に指で触れました。精に溶け込んだ欲望は既にその熱を失っていましたが、他人の妻で満たした悦楽の抜け殻が粘りとなって指先に纏わり付きます。
あの伊豆で過ごした夜、私は由香里の膣口から漏れる岩崎の白い精を目にして、体を引き裂かれるような激しい嫉妬に身を捩らせました。そして、反り返った自分の茎を、他人の精液で満たされた妻の中へと沈めたのです。
生暖かな粘液が亀頭に絡み、狂おしくも眩い恍惚の中で、私自身も体を震わせたまま精の飛沫を吐き出したのでした。
あの夜の記憶を蘇らせながら立ち竦む私の下腹部は、不条理な熱い脈動が昂りとなって茎の先を上へと反り返らせます。心を掻きむしるような嫉妬と、得体の知れない至福が交じり合い、体を支える両足の力を奪い去っていくようでした。
私はケースの中の白濁液を見つめながら、岩崎の茎に舌を這わせる由香里の姿を思い浮かべたのです。
由香里… 岩崎が言った「もう一つの贈り物」を舌で覚えるために、これと同じ精を口でも受け止めたんだね…
由香里の体には、喉の奥に流れ込んだ岩崎の精が染み込んでいるんだね…
心の中では、受精しても構わないから体の奥に欲しいって願ったんだろ…
私は廊下の壁にもたれ、両指に付いた白濁の液が引く透明な糸を見つめたまま、寝室にいる妻に向けた罪深い言葉を繰り返したのです。
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