岩崎がフロントで手続きしている間、私はカウンターから少し離れた隅あるソファーに妻と並んで座りながら彼を待ちました。
「ねえ… 岩崎さんとは何処で知り合ったの?」
「ん… 後で教えるから…」
今夜の相手について、妻は今まで私に何も聞こうとはしませんでした。私が選んだ相手だということを信じようとしたからなのか、それとも、私の性癖に否応なく応じたに過ぎなかったからなのか、それは判りません。
しかし、岩崎と会ってからの妻の態度や言動が私の妬みをさらに煽り立て、心を乱しているのは確かです。
自ら望んだこの状況が、時間と共に現実へと近づくにつれ、心の準備と覚悟が追いつかないのです。
妻の口元からはさっきまでの笑みは消え、唇を固く結んだまま、向かいの壁際にある調度品を見つめていますが、落ち着きなくハンドバックを持ち換えています。
私の目に映った彼女の姿と、ベットの上で岩崎と交わる露わな姿が私の瞳の奥深くで重なりあいました。
「川島さんもカードに名前を記入して下さい」
カウンターにいる岩崎に呼ばれてフロントの受付に行きました。
渡されたカードに住所や名前を書こうとした時、些細なことに対する躊躇いが込み上げたのです。
岩崎に私の住む家を知られたくない…
それは一つだけの理由からではなく、幾つもの思いが交錯した漠然としたものからでした。
私がまだ、心のどこかに岩崎を信頼していないからなのか…
それとも… 私の留守中に彼が家を訪れ、妻と愛し合う姿を思い浮かべてしまったからなのか…
そのどちらにしても、今に思えば取るに足らない、私自身の何かに対する悪足掻きだったのかも。
岩崎と妻の目を盗むように慌てて偽りの住所をカードに書き込むと、フロントの係りに突き出すように渡したのです。
「8階ですね」
岩崎はフロントから手渡されたキーの番号を確かめると、エレベーターのボタンを押しました。
私はドアに向かって立つ妻の首筋と肩を見つめながら、胸を内側から叩くような切なく激しい鼓動を押し隠しながら、乾いた唾を飲み込んだのです。
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