私は並んだ料理に箸を付けながらも、その味を感じることはありませんでした。乾ききった透明な味を飲み込むだけの食事だったのです。
この部屋の中での「他人」とは、もしかしたら私なのでは…
妻にとって、私が二人の間に居座ることは重荷なのでは…
私自身が一夜の妻となる由香里の心を乱しては、この夜の意味が無くなってしまうのです。
「酔い醒ましに一階の露天風呂に行ってきますから」
私は席を立ち、岩崎と妻に告げました。
岩崎は私の言葉を予測していたかのように、小さく頷いたのです。
「部屋の鍵は持って出かけて下さい… 入る時のノックは不要ですから。御自由にどうぞ…」
彼は由香里だけでなく、夫である私の心の奥まで自在に支配しつつあるのかも知れません。
妻は岩崎の傍らに寄り添ったまま、私と目が合うことを拒むかのように顔を伏せています。
彼と二人になる時を心待ちにする自分自身に対し、戸惑いを感じているのでしょう。
今までの彼女にとって、決してそれは有り得ないことだったのですから。
眩く美しいその体で彼を由香里の虜にして欲しい…
岩崎が心の底から私を羨み妬むように、彼の一夜妻として全てを与えて欲しいんだ…
由香里への未練を断ち切るように、「他人」となった私は無言のまま部屋を出たのです。
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