岩崎の店を二人で出ると、歩いて数分のところにある喫茶店に入りました。
平日の夜なのに、中には客が数人だけで、私達は隅のテーブル席に座りました。
店内に流れる60年代の洋楽が、岩崎との会話を周りへ閉ざしてくれそうだなと感じると、私の気持ちやっと少しずつ落ち着いてきたのです。
彫の深い顔立ちの岩崎の目は、私の気持ちの整理が付くのを待ってくれているかのようにも思えました。
「突然、店におじゃまして驚いたでしょ」
「いえ、3日以内にお会い出来ると思っていましたから」
注文したコーヒーを飲みながら、そう確信することが当然かのように岩崎が答えました。
「別に… 恥ずかしいことじゃないですから」
「えっ… 何がですか?」
私はこの場で、しらを切るつもりはありませんでした。
ですが、いきなり出た岩崎の言葉が、想定と異なるほどに直接的だったので、とっさに身構えてしまったのです。
「昨日の夜、貴方の言葉と態度で、胸の中のお気持ちが判りましたから…」
「私の言葉と態度で判ったって… 何が判ったんですか?」
私が問いかけると、岩崎は声を低めながら、語りかけるような口調で話を続けたのです。
「昨日の夜、夫婦交換の話が出た時、貴方は『夫婦交換が初めての方のお相手をしたことがあるんですか』って私に聞きましたよね」
言葉に詰まった私に構わず、岩崎は続けました。
「あれは、貴方が無意識のうちに自分をその夫婦に置き換えて、私に聞いたんでしょ。夫婦交換は、貴方にはとっては他人事なんかじゃなかった、だからです…」
岩崎の言葉は、まるで私を諭しているかのように聞こえました。医者の前で萎縮する患者のような心境かもしれません。今さら誤魔化すようなことは、かえって子供じみたことのようにも思えたのです。
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