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妻への告白【07】

テーブルを間に、妻と向き合って座りました。これから妻が何を言い出すのか、私は落ち着き払った態度を装いながら彼女の口元を見つめていたのです。

「昨日の話の続きだけど… 上手くは言えないけど…」

話し出した妻の口調は、決して刺々しいものではなく、静かに言葉を選びながら語りかけるようなものでした。

「人ってそれぞれ考えが違うものだし、好みや願いも違うことは判ってるの」

少しの間を置いて、私の目を覗きこみながら話を続けます。

「それはもちろん… セックスにも言えることよね…」

私は黙って妻の話を聞きました。何かの言葉を挟むことは、妻を混乱させるだけのように思えたのです。

「私の友達にもいるの… 旦那さんのお願いでSMをしたりとか… コスプレみたいなことをしたりとかね」

妻は私の表情を伺うかのように顔を近づけながら

「もし、あなたが例えば… 例えばだけど、SMとかに興味があって、それがあなたのしたいことだったら… 私は受け入れようと思うの」

「だって、あなたがお願い出来るのは私しかいないし… 私が断ってしまったら永遠に願いがかなわないもんね… 他の女の人に頼んだりしたら、それこそ大変!」

妻は自分で話したことに照れを感じたのか、少しの笑みを浮かべました。私もそれにつられて緊張がほぐれ、肩の強張りが引いていく気がしました。

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「何か飲もうか… 喉が渇いちゃった」

妻はそう言うと椅子から立ち上がろうとしました。

「いいよ、俺が持ってくる」

私はそう言って冷蔵庫から缶ビールを取り出しました。

「あの… ビールを飲みながらする話じゃないと思うの」

私は慌ててミネラルウォーターのボトルを掴み、グラスを持ってテーブルの椅子に座りました。

「でも… 昨日、あなたが言ってたのはSMのことじゃないよね…」

急に妻の声が変わり、私の目の奥を探るように視線を向けたのです。

「教えて… 怒らないから…」

私は今まで考えた妻への告白を思い返し、最も気持ちが込められる言葉を探しました。でも、引き出しのあちこちに仕舞い込んだものは、とっさには見つからないのです。

「私に、あなたの見ている前で、他の男の人とセックスして欲しいの…?」

無言のまま妻を見つめました。返す言葉が喉の奥で止まったのです。
妻には、それが私の答えだとすぐに判りました。

「じゃあ… あなたはその時、何をしているの? 私がそうすることで、あなたの何が満たされるの?」

それは今まで私自身が何回も考えながら、自分で本当の答えが見つけられない問いでした。

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妻が他人と重なり合い、霰もない性の交わりに浸りながら悶える姿…
私が与えるものとは違う悦びを女の本能のまま受け入れ、よがりの声を漏らす妻…

それによって私が得るものは、歪曲した嫉妬が入り混じった、自分だけの利己的な快楽しかないのだろうか…
他の大切なものを壊してまでも、妻に求め欲しがる「姿」なのか…

「変だと思うだろ… 異常だと思うだろ… そう思われても仕方ないよな」

私が考えた挙げ句の妻への返事は、そんなものしか残っていなかったのです。

「ううん… そんなふうには思っていないよ。最初に言ったでしょ、人の好みや願いは人それぞれだって」

妻は諭すように私に言いましたが、それは彼女が自身に対して言ったのかも知れません。
私の返事を待つこともなく、妻は自分の思いを話し続けました。

「思い切って言うけど… 私にももちろん性欲はあるわよ… たぶん人並だとは思うけどね」

「だけど、それはあなたに対してのものなの。夫以外の人とのセックスは… 結婚したときから有り得ないと思っていたし、そう思えなきゃ結婚しなかった」

「あなたも私に対して、そういう妻でいて欲しいと願っていると信じていたし… それを裏切っちゃいけないと思ってた…」

妻の話が途絶え、一瞬、後に続く言葉を口から出すことを戸惑うかのような表情をしたのです。

「ねえ… 夫婦交換って… 知ってる?」

私は思わず妻の顔を見返しました。まさか彼女の口から先にその言葉が出るとは思っていなかったのです。
妻は私の中の僅かなうろたえから、彼女なりの確信を持ったのかもしれません。

「あなたが望んでいるのは、そのことなのね? 夫婦交換… なのね?」

念を押す妻に、私は黙って頷きました。

「そうか… お互いのパートナーを交換しあってセックスする夫婦がいるのは知っていたけど… どこか他所のことだと思ってた…」

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お互い、暫らく沈黙してしまいました。
壁に掛けた時計の刻みの音が、微かに聞こえるほどに二人とも黙り込んだのです。

重苦しい空気に行き場を失った妻の口から、途切れ途切れの掠れた声が漏れました。

「あなたは他の奥さんと… 他の奥さんとセックスがしたくて… だから私にも他の男の人と…」

次第に妻の目が潤みだし、瞼の下に溜まった涙が光っています。
私は決して偽りの無い、このことだけは本心から妻に伝えたい言葉を口にしたのです。

「俺は他所の奥さんとはセックスしなくてもいいから… 由香里の姿が… 他の男に抱かれる由香里の姿さえ見れれば、それだけでいいんだ」

私にとっては精一杯の、虚飾の無い想いです。

「そう言っても、余計に由香里を混乱させちゃうよな。見るだけでいいなんて…」

妻は瞼の滴を指で拭きながら、溜息の混じった呟きのような声を洩らしました。

「うん、混乱してる。物凄く混乱してる… だけど…」
「だけど?」
「あなたが最近、様子が変な理由が判ったことだけは、少し安心したかも…」
「心配かけてすまない…」
「でも、まさかそのことだとは思わなかった…」

もうこれ以上、この話題を続けるのは、妻にとって負担が大きすぎると思いました。

ゆっくり時間をかけよう… 最終的に妻が拒んだら、それも仕方ない…

「今、答えを出して欲しいなんて思っていない… 少し時間をかけてもいいから。その上で出た答えなら由香里の言うとおりにするし、二度とこのことは言わないから」

妻は目を伏せて、フローリングの脇の置物をぼんやり眺めています。

「1ヶ月… 時間をかけてもいいから… 1ヶ月後に答えを待っているから」

私の言葉に、妻は顔をあげて独り言のように答えたのです。

「3日あればいいよ…」
「急がなくていいから… ゆっくり考えて欲しんだ」

目を私に向けたまま、妻は小さく首を振りました。

「1ヶ月もそのことを考えたくないの… 3日で充分…」

その時になって、知らぬ間に妻を追いこんでいる自分に気が付きました。
妻に対する告白のつもりが、いつしか私の願望に対する妻の回答を、期限付きで迫っていたのです。

「何か… 食べようか… 今日は俺が作るから」

夕食の準備を理由に、私は妻を一人にさせました。

きっと今は私の姿など見たくないかもしれない…

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ふと、フラッシュバックのように過去の自分を思い返しました。
欲しいものは何でも手に入れなければ気が済まない、自分の強欲な性格は知っていました。
私はそれで正しいのだと思い続けています。
何故なら、由香里そのものだって、欲しくてたまらなくて手に入れたのですから。

独身時代、自分から由香里に迫り、恋人になった後も「妻としての由香里」を求め続けたからこそ現在があるのです。
今さら自分自身を否定することも出来ませんし、それは由香里との生活そのものを否定することにさえなるのですから。

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夫である私の見ている前で他人と体を重ね合わせ、すべてを受け入れる妻の姿…
夫である私にすらまだ見せたことのない露わな妻の姿…

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