日の落ちかけた秋の都心は訪れの早い夕暮れに包まれ、無機質なアスファルトの道路脇には枯葉がうっすらと積っています。(思い返せば、ちょうど4年前の今頃のことです)
緊張と心の高まりを静めるためか、妻は車外の風景や道を歩く人を眺めながら、あれこれ取りとめもないことを話します。やがて、彼女はそれによって平静が戻るわけではないことに気付いたのか、目的地のホテルが近付くにつれ、次第に無口になっていきました。
普段なら夕食をとる時間を過ぎていましたが、私も妻もあまり食欲がありません。かといって何も食べないわけにもいかないので、途中のスタンドコーヒーで軽い食事をとりました。
「それ、おいしい?」
「うん…」
お互いの食べかけを交換しながら、細切れの会話で場を取り持ちました。
妻の緊張の中には、どれ程の期待が混じり込んでいるのだろう…
不安の中には、性の欲望を夫の前に晒す躊躇いもあるのだろうか…
それは、妻の想いの一部でも、私自身の願いと同じであって欲しいという、身勝手な望みなのかもしれません。
週末の都心は道路の渋滞も無く、岩崎との約束の9時より少し早くホテルに着きました。
地下の駐車場に車を停め、フロントへ向かう途中の通路を歩いたいた時、不意に後ろから私を呼び止める声がしたのです。
「川島さん」
振り返ると、岩崎が駐車場の出口から歩いて来ました。
「私もちょうど今、着いたばかりですよ。川島さんを待たせてはいけないと思って急いで来たんです。間に合って良かった」
岩崎は少し大袈裟に笑みを浮かべながら、私の傍らの妻に会釈しました。
「岩崎です。ご主人にはお世話に… ん? お世話になるのはこれからかな」
わざとおどけた挨拶に、妻の緊張も緩んだのか、顔に少し笑みが戻った気がしました。
「川島の家内です。はじめまして」
妻も岩崎に向かって小さく会釈しました。
彼女が口にした家内という言葉が、私にはある種の響きを伴って耳の奥に入り込みます。
その言葉が本来持つ意味と、これから行おうとする不貞との不釣り合いさに、背徳の裏側に潜む甘い香りを感じたからかもしれません。
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