妻は隣りの部屋で、ホテルの中居から渡された浴衣に着替えました。彼女の浴衣姿を見るのは、一年前に箱根の温泉宿に泊まって以来です。
あの頃、今のような夫婦の愛し方が現実になる事など、夢にも思ってはいませんでした。
私と岩崎も浴衣に着替え、三人で居間の座椅子に座りながら、窓から見える夜の海について話をしました。
岩崎は10代の頃からスキューバダイビングを始め、何度も外国の海に行ったとのこと。ナイトダイビングで東南アジアの漆黒の海に潜った時の出来事を妻に話しました。
闇に包まれた海の中は墨汁のように黒く、時間も重力も止まった異空間での体験談に、妻は子供のような目で聞き入ります。
今まで彼女があんな眼差しで、私の話に夢中になったことがあったろうか…
話術のクニックやスキルなどとは別の、人を引き付ける本質的な魅力において、私と岩崎には大きな差があるのかも知れません。
彼がもし私よりも先に由香里と出会っていたら…
そんなことを思いながら、いつしか私自身も岩崎が話す様々な出来事に引き込まれていたのです。
「お食事をお持ちしました」
数人の中居が部屋に料理を運んできました。
卓の上に並べられた鮮やかな色彩の料理を前に、妻は岩崎に酌をします。
「あちらの部屋にお布団を敷いておきますので、いつでもお休み下さい」
中居には、私達三人の関係など想像すら出来ないでしょう。
彼女達が用意している布団に敷かれた純白のシーツの上で今夜、妻は夫に見られながら岩崎と結ばれ、その証として彼の精を体奥に注がれるのです。それが妻を寝取られる夫婦のための準備であることなど、彼女らは知る由もありません。
中居達から見たら、私と岩崎のどちらが由香里の夫に見えるのだろう…
そんなことを思いながら、私はあまり飲めない酒に口を付けました。
浴衣姿で岩崎の隣りに座る由香里は、食事をしながら何度も彼に酌をします。他人に見つめられる旅先での非日常が、彼女の心を解きほぐしていくのでしょう。
私は、失恋に似た切ない未練と恋心が入り混じる感情の中で、時間とともに一夜妻へと変わりゆく由香里の姿に見とれていたのです。
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