エレベーターを降り、不規則に入り組んだ冷たい廊下を足音を忍ばせながら歩きました。
由香里と岩崎が時を過す部屋の前に立つと、無意識に周りを見渡しながら、手にしたキーをドアの鍵穴に静かに差し込みました。
ロックの外れる金属音が誰もいない廊下に響きます。
まるで禁断の罪を犯すかのような後ろめたさを感じながら、音をたてないように、ゆっくりと扉を開けたのです。
障子の先にある居間の照明は消され、小さな常夜灯だけが微かな光を灯しています。
私は息を押し殺し、耳をそばだてました。
それは啜り泣きにも似た、甘く切ない消え入るような声でした。
襖の向こうの寝室から、妻の喘ぐ息遣いが微かに聞こえてきたのです。
男の愛を求め、強張りに身体を貫かれる悶えの声…
不貞の行為に対する言い訳を探しながら、込み上げる悦楽に堪え切れず唇から零れる息…
私は足の支えを失うかのように、畳の上に座り込みました。
覚悟は出来ていても、そして2人の行為が二度目のこととしても、耳に纏わり付く妻の啜り声が私を現実の出来事として打ちのめしたのです。
今回、岩崎には避妊具を付けないままでの交わりと射精を許しています。それは彼だけでなく、私自身の願いでもありました。
他人の肉茎と妻の秘部が直に触れ合い、相手の全てと結ばれること… 一夜の夫婦として、互いが恍惚の快楽に包まれながら果てる瞬間の脈動を、何にも隔てられることなく感じ合って欲しかったのです。
そして、私には自分でも認めたくないもう一つの卑屈な願望がありました。
由香里は私と結婚するまで、複数の男性と恋愛した経験があります。20代の女性であれば当然のことでしょう。むしろ、それを受け入れることが、新たに夫なる男性の義務であるのかもしれません。
しかし私の場合は全く逆でした。結婚してからの数年間、妻と他人とのセックスに対する強い性的な執着が日毎に大きくなっていったのです。それは妻に対して、決して打ち明けることの出来ない密かな想いでした。
夫婦として妻と交わりながらも、元彼と由香里の身体が結ばれる姿を想い描きながら、その愛おしい体内に精を放つことに秘めた悦びを見い出していたのです。私は、他人と交わる由香里の過去を、目の前の現実として蘇らせたいという願望の虜になってしまったのかも知れません。
私は手を畳に押しつけながら身体を起こすと、音をたてないように襖の前に立ちました。
閉じた襖の間から漏れる愛おしい由香里の喘ぎが、打ちひしがれた私の心を爪で掻き毟ります。
嫉妬の感情すら引き裂かれる激しい焦燥と屈辱の中で、私の体を流れる妻への情愛が下腹部の強張りとなって露わになったのです。
高まる鼓動と呼吸が身体を巡り、目眩で歪む視界の中に妻の姿が浮かび上がりました。
私は一夜妻となった由香里の姿に引き寄せられるように、襖にゆっくりと震える手を添えたのです。
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