私は残りのコーヒーを飲み干すと、氷の溶けかかった水のグラスに口を付けました。
他人に聞かれたくない秘密の話は、喉を奥から渇かすのです
「場所は普通のホテルにしましょう。泊まり…でよろしいですか… 時間に余裕があった方が、奥様の体への負担が少ないですから」
「はい、そのつもりでいます」
「では、隣あった2部屋を予約しましょう。1部屋は奥様とのセックスを遂げるための部屋です。ダブルよりもツインがいいと思います」
「え? ダブルがいいんじゃないですか?」
「ベットはもう1つ必要です。川島さんが、奥様と私のセックスを心ゆくまで見つめるためのベットです」
私は黙ったまま頷きました。
岩崎からの答えは、私の口を噤ませる程に、リアルさを伴うものだったのです。
妄想の中で、数えきれないほど思い描いた、妻と他人が愛し合う姿…
私の目の前で他人の肉茎が妻の深部を貫き、白濁の精の吐き出し口を求めて膣壁を犯す光景…
決して有り得ないとさえ思えたその場面を、傍らのベットから見つめることが本当に出来るのです。
2人の露わな行為に合わせて軋むベットの音や、喘ぎの間の息遣いまでが、耳の底から脳の奥へ向かって伝わってくるような錯覚に包まれました。
その瞬間、私は我に返って岩崎を見つめました。向かいに座っている彼に、一瞬の妄想に陥った自分を悟られたのではと焦ったのです。
「最初にも言ったでしょ… 『寝取られ』は恥ずかしい願望じゃないんです」
まるで私は、彼の手のひらにいるようなものでした。でも、不思議なことに、屈辱に似た感情は無かったのです。
彼に見透かされると言うより、私を見透かしてくれているという気持ちだったからかも知れません。
「もう1部屋は… 2部屋予約した残りの1部屋はどうするんですか?」
その場に留まる空気を払うかのように、私は岩崎に確かめました。
「他の1部屋は、私の控え室です。私が抱いたばかりの奥様の体を、今度はゆっくりと川島さんが愛するんです。その間、私が姿を消すための部屋が必要なんです」
岩崎はテーブルに肘を置くと、私に念を押すように身を乗り出しました。
「寝取られで大切なのは… 私が奥様を寝取ることじゃありません」
彼はゆっくりと諭すように話を続けます。
「大切なのは… 他人が愛したばかりの奥様の体を、ご主人がゆっくりと心の底から抱きしめることなんです。そのための2人の時間が必要なんです」
「寝取らせや夫婦交換は、より深く奥様を愛するための手段であって、目的ではありません。それを勘違いすると、必ず後悔しますよ」
私は岩崎に目線を合わせながら、ゆっくり頷きました。
岩崎が言ったことは、私の本心であり願いそのものでした。
輪郭だけしか見えない答えを、私が言葉に置き換える前に、彼がそれを口にしたのです。
私には、彼と同じ趣向を共有しあうだけでなく、価値観までもが同じなんだとさえ思えました。
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