私と妻、岩崎の三人は、地下の駐車場から階段で1階に上がりました。
堅い空気にならないよう、何か岩崎と話さなくてはと焦りました。私自身、心の準備が整う前に彼と駐車場で会ってしまったことが、想定してた段取りを狂わせてしまったのです。
「奥さん、このホテルのテナントに洒落たインテリア用品の店があるんです。興味がおありなら如何です?まだ閉店はしてない筈ですから」
岩崎が、如何にもそれが自然な流れでもあるかのように妻に話しかけました。
「あ… はい…」
今の妻の心境はインテリアどころじゃ無い筈ですが、初対面の相手からの誘いなので、応じる他は無かったのだと思います。
9時近いこともあり、店の中の客は数人しかいませんでした。岩崎は妻をエスコートしながら、輸入物の小さなインテリア品を手に取りました。
「へぇ… これはあまり見かけない品ですね」
岩崎は、それがさも骨董品でもあるかのような身振りで妻に話しかけます。
二人の会話に私が割って入るのも大人気ないので、少し離れた場所から話の内容に聞き耳をたてました。
岩崎はいくつかの小物を手に取りながら、インテリア店を経営している彼だからこそ知っている見立てを妻に説明していました。
それは妻の好奇心と興味をかき立て、今までの彼女の不安を消し去るには充分な話題の足掛かりでした。次第に彼女の顔から緊張が消え、その分、いつもの笑顔が戻ってきたのです。
「え…? そうなんですか! お詳しいですね」
妻が何に驚いているのか、私の場所からはよく聞こえません。ですが、岩崎は私に構わず、妻の興味をくすぐる話題を続けています。
「わ… 凄いですね。ご自分の店なんですか」
妻は顔に笑みを浮かべながら、私に近づいて来ました。
「岩崎さんは渋谷に、自分のインテリア店を持ってるんだって」
「うん… そうだよ、知ってるよ」
私は内心、だから何だという気分になりました。
岩崎が見え透いた話術で妻の気を引くことが不愉快なのか、それに簡単に乗せられる妻に苛立ちを感じたのか…
きっと、出だしから岩崎のペースで始まり、彼の思惑通りに進んでいる事に、大人気ない嫉妬を感じたのかもしれません。
今夜の計画からすれば、妻が岩崎と打ち解けることは絶対に必要なことですが、それは夫である私が全ての主導権を握りたかったのです。
間もなく、閉店の時間が迫ってきたので、三人で店を出ました。
私の前を岩崎が妻と並んで歩きながら、彼の店がある場所を教えています。
「本当ですか! 前に私の友人がそこの近くでバイトしてたから、よく知っていますよ」
まるで懐かしい友人にでも出会ったかのように、妻の目が岩崎の顔に向いています。
彼女が岩崎に少なからず興味を持ち出した様子から、性の相手として拒む心配は無さそうです。
唯一の不安が消え去った安堵と、私には無い「雄」としての魅力を妻に示す岩崎への妬みが、心の奥底で複雑に入り混じりました。
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