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他人と妻【04】

日の落ちかけた秋の都心は訪れの早い夕暮れに包まれ、無機質なアスファルトの道路脇には枯葉がうっすらと積っています。(思い返せば、ちょうど4年前の今頃のことです)

緊張と心の高まりを静めるためか、妻は車外の風景や道を歩く人を眺めながら、あれこれ取りとめもないことを話します。やがて、彼女はそれによって平静が戻るわけではないことに気付いたのか、目的地のホテルが近付くにつれ、次第に無口になっていきました。

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普段なら夕食をとる時間を過ぎていましたが、私も妻もあまり食欲がありません。かといって何も食べないわけにもいかないので、途中のスタンドコーヒーで軽い食事をとりました。

「それ、おいしい?」
「うん…」

お互いの食べかけを交換しながら、細切れの会話で場を取り持ちました。

妻の緊張の中には、どれ程の期待が混じり込んでいるのだろう…
不安の中には、性の欲望を夫の前に晒す躊躇いもあるのだろうか…

それは、妻の想いの一部でも、私自身の願いと同じであって欲しいという、身勝手な望みなのかもしれません。

週末の都心は道路の渋滞も無く、岩崎との約束の9時より少し早くホテルに着きました。
地下の駐車場に車を停め、フロントへ向かう途中の通路を歩いたいた時、不意に後ろから私を呼び止める声がしたのです。

「川島さん」

振り返ると、岩崎が駐車場の出口から歩いて来ました。

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「私もちょうど今、着いたばかりですよ。川島さんを待たせてはいけないと思って急いで来たんです。間に合って良かった」

岩崎は少し大袈裟に笑みを浮かべながら、私の傍らの妻に会釈しました。

「岩崎です。ご主人にはお世話に… ん? お世話になるのはこれからかな」

わざとおどけた挨拶に、妻の緊張も緩んだのか、顔に少し笑みが戻った気がしました。

「川島の家内です。はじめまして」

妻も岩崎に向かって小さく会釈しました。
彼女が口にした家内という言葉が、私にはある種の響きを伴って耳の奥に入り込みます。

その言葉が本来持つ意味と、これから行おうとする不貞との不釣り合いさに、背徳の裏側に潜む甘い香りを感じたからかもしれません。

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他人と妻【05】

私と妻、岩崎の三人は、地下の駐車場から階段で1階に上がりました。
堅い空気にならないよう、何か岩崎と話さなくてはと焦りました。私自身、心の準備が整う前に彼と駐車場で会ってしまったことが、想定してた段取りを狂わせてしまったのです。

「奥さん、このホテルのテナントに洒落たインテリア用品の店があるんです。興味がおありなら如何です?まだ閉店はしてない筈ですから」

岩崎が、如何にもそれが自然な流れでもあるかのように妻に話しかけました。

「あ… はい…」

今の妻の心境はインテリアどころじゃ無い筈ですが、初対面の相手からの誘いなので、応じる他は無かったのだと思います。

9時近いこともあり、店の中の客は数人しかいませんでした。岩崎は妻をエスコートしながら、輸入物の小さなインテリア品を手に取りました。

「へぇ… これはあまり見かけない品ですね」

岩崎は、それがさも骨董品でもあるかのような身振りで妻に話しかけます。
二人の会話に私が割って入るのも大人気ないので、少し離れた場所から話の内容に聞き耳をたてました。

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岩崎はいくつかの小物を手に取りながら、インテリア店を経営している彼だからこそ知っている見立てを妻に説明していました。
それは妻の好奇心と興味をかき立て、今までの彼女の不安を消し去るには充分な話題の足掛かりでした。次第に彼女の顔から緊張が消え、その分、いつもの笑顔が戻ってきたのです。

「え…? そうなんですか! お詳しいですね」

妻が何に驚いているのか、私の場所からはよく聞こえません。ですが、岩崎は私に構わず、妻の興味をくすぐる話題を続けています。

「わ… 凄いですね。ご自分の店なんですか」

妻は顔に笑みを浮かべながら、私に近づいて来ました。

「岩崎さんは渋谷に、自分のインテリア店を持ってるんだって」

「うん… そうだよ、知ってるよ」

私は内心、だから何だという気分になりました。
岩崎が見え透いた話術で妻の気を引くことが不愉快なのか、それに簡単に乗せられる妻に苛立ちを感じたのか…

きっと、出だしから岩崎のペースで始まり、彼の思惑通りに進んでいる事に、大人気ない嫉妬を感じたのかもしれません。

今夜の計画からすれば、妻が岩崎と打ち解けることは絶対に必要なことですが、それは夫である私が全ての主導権を握りたかったのです。

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間もなく、閉店の時間が迫ってきたので、三人で店を出ました。
私の前を岩崎が妻と並んで歩きながら、彼の店がある場所を教えています。

「本当ですか! 前に私の友人がそこの近くでバイトしてたから、よく知っていますよ」

まるで懐かしい友人にでも出会ったかのように、妻の目が岩崎の顔に向いています。
彼女が岩崎に少なからず興味を持ち出した様子から、性の相手として拒む心配は無さそうです。
唯一の不安が消え去った安堵と、私には無い「雄」としての魅力を妻に示す岩崎への妬みが、心の奥底で複雑に入り混じりました。

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他人と妻【06】

岩崎がフロントで手続きしている間、私はカウンターから少し離れた隅あるソファーに妻と並んで座りながら彼を待ちました。

「ねえ… 岩崎さんとは何処で知り合ったの?」
「ん… 後で教えるから…」

今夜の相手について、妻は今まで私に何も聞こうとはしませんでした。私が選んだ相手だということを信じようとしたからなのか、それとも、私の性癖に否応なく応じたに過ぎなかったからなのか、それは判りません。

しかし、岩崎と会ってからの妻の態度や言動が私の妬みをさらに煽り立て、心を乱しているのは確かです。
自ら望んだこの状況が、時間と共に現実へと近づくにつれ、心の準備と覚悟が追いつかないのです。

妻の口元からはさっきまでの笑みは消え、唇を固く結んだまま、向かいの壁際にある調度品を見つめていますが、落ち着きなくハンドバックを持ち換えています。
私の目に映った彼女の姿と、ベットの上で岩崎と交わる露わな姿が私の瞳の奥深くで重なりあいました。

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「川島さんもカードに名前を記入して下さい」

カウンターにいる岩崎に呼ばれてフロントの受付に行きました。

渡されたカードに住所や名前を書こうとした時、些細なことに対する躊躇いが込み上げたのです。

岩崎に私の住む家を知られたくない…

それは一つだけの理由からではなく、幾つもの思いが交錯した漠然としたものからでした。

私がまだ、心のどこかに岩崎を信頼していないからなのか…
それとも… 私の留守中に彼が家を訪れ、妻と愛し合う姿を思い浮かべてしまったからなのか…

そのどちらにしても、今に思えば取るに足らない、私自身の何かに対する悪足掻きだったのかも。
岩崎と妻の目を盗むように慌てて偽りの住所をカードに書き込むと、フロントの係りに突き出すように渡したのです。

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「8階ですね」
岩崎はフロントから手渡されたキーの番号を確かめると、エレベーターのボタンを押しました。
私はドアに向かって立つ妻の首筋と肩を見つめながら、胸を内側から叩くような切なく激しい鼓動を押し隠しながら、乾いた唾を飲み込んだのです。

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川島 ゆきひと

Author:川島 ゆきひと
夫である私の見ている前で他人と体を重ね合わせ、すべてを受け入れる妻の姿…
夫である私にすらまだ見せたことのない露わな妻の姿…

30代になった私たちが寝取られや夫婦交換で体験した様々な出来事、いろんな方との出会いを、このブログに書きたいと思います。

私の詳しいプロフィールについては、こちらをどうぞ








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