電車の中で妻は、心が落ち着かないのか時計を気にしたり、車内の吊り広告に目を向けたりしていました。
あの日から妻と岩崎は、何度かメールの交換をしています。
もちろん、私が認めた上でのことです。
決して妻の前で寛大さを装っているわけではありません。
むしろ、その逆なのです。私の知らない、見えないところで彼女と岩崎の関係が深まることを恐れているのです。
岩崎との約束の場所に向かう妻の落ち着かない仕草が、私にはあの日以後に2人だけの関係が無いことの証に思えました。
約束の駅で降り、混雑したコンコースを抜けて、待ち合わせ場所のロータリーを探しました。
「川島さん」
岩崎が人混みの中から私達に声をかけました。
彼と会うのは1ヶ月ぶりなのですが、その時間の経過を感じることはありませんでした。
あの日から私は、1日たりとも彼の存在を忘れたことなどなかったからです。それは妻にとっても同じ筈です。
「こんにちは…」
妻は目を伏せたまま、岩崎に小さく会釈をしました。あの夜、幾度かの淫らな交わりをし、その後、メールのやりとりをしながらも、再び会う彼に相応しい言葉が見つからなかったのでしょうか。
あるいは、私に対する彼女なりの遠慮なのかも知れません。
「由香里さん… また逢えると思って、ずっと今日を待ち焦がれていました…」
妻は顔を上げて岩崎を見ると、安心したような微かな笑みを浮かべたのです。
まるで彼が初恋の相手でもあるかのように…
「岩崎さん… 約束どおり、旅行の間は由香里を妻と思って接して下さって構いませんから」
「判りました」
彼は由香里の鞄を持つと、彼女の背に手を添えて駐車場へと案内します。私は二人の後ろ姿を見つめながら、次第に早まる鼓動の早まりを感じていました。
私の妻は、今の瞬間から岩崎のあらゆる欲望を受け入れる一夜妻となったのです。
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