私達は駅ビルの地下に駐車している岩崎の車に乗りました。
黒いワンボックスのアメリカ車は威風として、彼の車に相応しい存在感を漂わせています。
「いいんだよ… 岩崎の隣で」
妻を彼の横に座らせ、自分は後ろの席に乗り込みました。
車は週末の都内の道路を抜け、首都高速から東名高速へと向かいます。
私はドアに寄りかかったまま、車内のスピーカーから流れるFMの曲をぼんやりと聴きながら外の景色を眺めていました。
「え? そうなんですか? この曲って…」
「知らなかった? あの曲と同じバンドだよ」
「だって、歌い方が違う感じだし…」
「この曲だけボーカルが別だから」
「じゃあ判らない筈だよー」
次第に妻の心も解きほぐれ、笑みを浮かべながら岩崎との会話を続けています。
あの日、私の前で淫らな行為に溺れながらも、今日、岩崎と会った時の彼女の緊張は、願望と恥じらい、期待と不安が交錯するものだったのかも知れません。
私は妻の様子に心なしか安堵しました。
それでも彼女は、私に背後から二人の様子を監視されているような重圧を感じているのでしょう。時折、後ろにいる私を気にする仕草をします。
途中、サービスエリアで一度休憩をとり、その後、バイパスと観光道路を経由して伊豆に入りました。
妻は車の中で、私と岩崎との共通の話題を見つけようと、ラジオの曲や車外の風景について話を振ります。
普段は物静かな彼女にしても、私と岩崎の間で会話が途切れることの息苦しさから逃れたかったのでしょう。
確かに、私と岩崎との接点は、「寝取り」と「寝取られ」の関係だけ…
彼の詳しい素性を知っているわけではありませんし、それ以上に私達のことを知られたくありません。
二人の男が妻を巡って、それぞれの欲望と性癖を満たす目的と打算で成立した特殊な関係なのです。
妻はその事に少なからず後ろめたさを感じているのでしょう。たとえ夫の願望ではあっても、最終的に行為を受け入れる決心をしたのは自分自身だと思っている筈なのですから。
海沿いの道路から見える海は、初冬の夕暮れの中で灰色に染められています。次第に周りの影は長くなり、見えない何かに急かされているような焦りが私の口数を減らします。
さっきまで私や岩崎に話しかけていた妻も、今はただ無言のまま暮れる車外の景色を眺めているのです。
「さあ、着きましたよ、ここです」
木立が急に開け、その奥に白い壁のホテルが見えました。この界隈でも有名な温泉ホテルのようで、館のような建物は老舗としての風格を漂わせています。
岩崎は車を脇の駐車場に停めました。
彼は妻のバッグを持ち、フロントへと向かいます。
その後を追うように、私と由香里は言葉を交わすこともなく並んで歩きました。
妻と二人だけの時間は今の一瞬しかない…
中に入ったら、もう岩崎の妻なんだ…
岩崎と由香里にとって二度目の一夜でありながら、この時の私は初めて妻を彼に委ねた日以上に心が揺れていたのです。
一度目は、由香里が岩崎と交わる現実感への拒絶が心の中にありました。
妻が行為の後に激しく後悔することへの不安や、自分自身への葛藤が、二人が重なり合う姿を目の当たりにするまで、その感情を麻痺させていたのでしょう。
でも、二度目の今回は違います。
妻自身が、夫の前で他人に抱かれる行為の背徳を受け入れた上で、夫婦の関係だけでは満たせない性の悦びがあることを知ったのです。
それは私自身が願ったことでありながら、彼女の中で岩崎の存在が次第に大きくなることへの恐れでもありました。
フロントでチェックインの手続きをしている岩崎の後ろ姿は、私の心など気にもとめずに、全てを彼の思惑で進めているかのようでした。
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