どのくらいの時が経ったのでしょう。迷路のような眠りから解かれた私は、閉じていた両目をゆっくりと開きました。
裸のまま眠ってしまった私の上に、揃うように重ねた布団と毛布がかけられています。
由香里…
私は慌てて隣の布団にいる妻を見ました。彼女は岩崎に顔を向けたまま、男の腕に寄り添うように眠っていたのです。
枕元の灯は消され、窓側の障子から漏れる内湯の照明が微かに部屋の中を照らします。暗がりに慣れない目で時計を探しました。まだ、深夜の2時過ぎです。
部屋を包む静けさの中で、微かに由香里の声が聞こえます。寄り添う互いの耳元で、声を潜めながら何かを話しているのです。
眠っている筈の夫を気遣ってなのか…
それとも、私に聞かれたくない二人だけのやりとりなのか…
冬の冷たさが、微かに開いた戸の隙間から部屋の中に漂います。
私は眠ったふりをしながら、消え入りそうな二人の話し声に耳を澄ませました。暗がりの中で目を閉じ、言いし得ぬ孤独と疎外に耐えていたのです。
……じゃあ… だったんですか……
……かも知れないですよね……
時折聞こえる由香里の小声に、まるで愛おしい相手に囁くような甘い笑みが混じります。一夜の妻としての限られたひと時を、互いに与え合う肌のぬくもりを感じながら、もう一つの幸福の中で過ごしているのです。
今、由香里は岩崎との一夜を慈しんでいるんだ…
時の限られた二つ目の満たしを妻が手にしたのなら、私はその傍で彼女を想い続けたい…
息を潜め、暗がりに漂う微かな妻の声を追いかけます。
すぐ側で見届けたい…
一夜妻としての由香里を愛したい…
胸を叩く鼓動の昂りを隠しながら、私は自分の存在を夜の片隅に消し去ったのです。
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