お互い、相手が浮気などしていないことを判っていながら、私からの度が過ぎる詮索に、妻は会話を止めて台所に戻り、夕食の準備を続けました。
暗く重い空気が、私の中に今まで秘めていた願望を言葉として露わにする最後の戸惑いを消し去りました。
夕食をテーブルに並べている妻に、私は背後から問いかけたのです。
「由香里… 俺以外の誰かに… 他の男に抱かれたいって思ったことはある?」
今までの夫婦関係を否定するかのような自分の言葉が、妻に対してだけでなく自身の耳にも突き刺さるように響きました。
テーブルに皿を置く妻の手が止まり、睨み返すように私の目を見ました。
私は表情を変えることなく、再び同じことを妻に問いかけたのです。
「なぜ…? なぜそんな事を聞くの? 本気で言ってるの…」
二人とも向き合ったまま、目を反らそうとしませんでした。
「私が… 他の人に抱かれたいって思うかなんて… 私が浮気する筈無いでしょ」
途切れ途切れの返事の隙間に、言葉に置き換えられない程の驚きと怒りが込められていました。
「俺の見ている前でなら… 浮気にはならないよ…」
妻の顔の中にあった夫に対する怒りが、まるで得体の知れない他人へ向けるような表情に変わったのです。
「え…? 今… 何て言ったの?」
私が発した言葉の意味することが、妻にとっては聞き間違いとしか思えない程に非現実的なものだったのでしょう。あるいは、何かの悪質な戯言にしか聞こえなかったんだと思います。
「だから… 俺の見ている前でなら… 他の男に抱かれても、由香里が浮気したことなんかにはならないんだよ…」
妻の目元が、次第に小刻みに震え出しました。
「由香里が他の男とセックスする姿が… 見たいんだ…」
「ちょっと… 待って…」
妻は崩れかかるように椅子に体を預けると、僅か数分の間に交わした会話の意味をゆっくりと呑み込みながら、私の顔を見つめたのです。
「いつから、そういうことを考えていたの…?」
「少し前から… 自分でもよくは判らない」
「ねえ… 本当はあなたが浮気したいんじゃないの? だから私に浮気をさせようとしているんでしょ?」
必死に私の真意を探ろうとした妻が見い出した答えは、私が秘めていた願望とは全く異なるものでした。
「違うよ… ただ、由香里と他の男のセックスが見たいんだ。由香里が他の男に抱かれて…」
その後は、言葉が続きませんでした。妻に対して発するにはあまりに情欲にまみれた言葉が喉まで出かかりましたが、私はとっさにそれを引き戻したのです。
私は徐々に冷静さを取り戻していたのかも知れません。後先を考えずに衝動的に口から出た「告白」が意味することの重大さに、私の方がうろたえてしまったのです。
「あ… だからか… 此の頃、あなたの様子がおかしいのは… そういうことだったんだ」
妻は、私の最近の変化に対する答えを見出すと、静かに同じ言葉を繰り返したのです。
「そうか… そういうことだったんだ… だから元彼のことを聞いたんだ…」
それまで決して自分からは「元彼」という言葉を出さなかった妻は、静かにつぶやきながら部屋の壁を見つめていました。
私は法廷の被告人のように、額と背中が汗でゆっくりと湿りを増していくのを感じながら、辛うじて立っているに過ぎなかったのです。
妻は椅子から立ち上がると、ゆっくりと寝室に歩いて行き、部屋のドアを閉じました。中から、照明を消すスイッチの音がかすかに聞こえてきたのを覚えています。
私は一人になったリビングの中で、テーブルに並んだ夕食をぼんやりと眺めながら、二度と元に戻らない「告白」を呪いました。
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