私はドアを小さくノックしました。もし、まだ二人が眠っているのなら、そのままにしておきたかったのです。
暫くすると、ノックした相手を確かめるかのように扉が僅かに開きました。
由香里でした。
既に彼女は衣服を整え、昨夜のチェックイン前と変わらぬ姿に身支度を済ませていたのです。
「ずいぶん早起きだね…」
「もう7時半だよ…」
由香里は笑みを浮かべながらも、気まずそうに目線を伏せました。
私は思わず立ったまま彼女を抱き締めたのです。
そのことが少しでも彼女の気持ちを楽に出来ればという気持ちはありました。
ですが、それ以上に妻が愛おしく、両腕の中で彼女の存在を確かめたかったのかも知れません。
部屋の奥から岩崎が出てきました。彼も既に身支度を整えています。
「奥様と二人の時間を下さってありがとうございます。由香里さんといつも一緒にいれる川島さんが… 心から妬ましいです…」
私は無言のまま顔を伏せました。妻を他人へ差し出した一夜への想いが込み上げる私には、岩崎に言葉を返すだけの余裕がなかったのです。
「また奥様とお会い出来る機会を下さい…」
私は由香里の顔を見つめました。妻の表情から、既に岩崎と次回の約束を済ませていることは明白でした。それが彼女と岩崎が満ち足りた夜を過ごしたことの証ならば、私が拒む理由などありません。
岩崎からの願いに、私は無言のまま頷きました。
「チェックアウトまで時間がありますから… 川島さんは奥様と二人だけで、もう少しゆっくりされてはいかがですか。」
岩崎はそう言うと、傍らにいる妻に向かって小声で何かを伝えました。
「じゃあ… 地下の駐車場まで岩崎さんを送っていくから…」
私にとっては、そのことすらも予め二人で約束していたことのように思えました。妻と岩崎が交わす互いの目線が、他人の壁を超えたものであることを察したからです。
言いようの無い疎外感が私を焦らせます。
私の目の前で愛し合い、二人だけの一夜を過ごした男と女がドアの向こうに消えていく姿を、部屋の真ん中に立ったまま無言で見つめたのです。
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